すずめ日記

アメリカ田舎生活。いろいろあるよね。

お年頃?

今回は少しダークなお話です。

我が家の長女は私立の女子校に通う中学2年生です。日本では、私立中学に通うというのはよくあることですが、ほとんどの子供が公立の学校に通うアメリカでは、特にニューヨークやロサンジェルスなどの大都市ではない田舎の町では、珍しいことなんです。娘がその学校に通っているのは、ドラッグや妊娠などの問題に片親として対応する自信が私に全くなかったのと、たまたま数学の得意な彼女が学費全額免除の奨学金をもらえたからなのです。全寮+通学のその学校はとにかく学費が高くて有名で、世界中からお金持ちのお嬢さん達がやって来ています。

なぜ本題にはあまり関係ないこんな話をするかというと、その特殊な学校に通っているということで生徒達、特に奨学金をもらって来ている通学生達が持っている優越感とプレッシャーをお伝えしたかったからです。

さて先日、娘がとても深刻な顔をしていることに気がつきました。いろいろ聞いても『話したくない』ということなので放っておいたところ、しばらくして実は友達に深刻な悩みを打ち明けられ、でもその友達に誰にも言わないと約束したから言えないというようなことを話すんです。

なんだろう、13歳14歳の深刻な悩みって何だろう、とあれこれ考えましたが浮かんでくるのはこの辺でよくあるドラッグや拒食症、虐待など。数日後に娘が『もう一人では抱え切れない』と打ち明けるのを聞くと、通学生の友達の一人がリストカットをしている、というものでした。それにもびっくりしましたが、その友達の名前を聞いてまたびっくり。外から見たらほぼ完璧な家庭で、我が家のように片親でもないしいつも最新流行の物をなんでも買ってもらっていたような子だったんです。スマートフォンすら持っていないうちの娘は、時折『iPhone7を発売日に買ってもらうんだって』などうらやましそうに話していたものでした。

力になろうと娘が話を聞いたところによると、学力の上下に伴う両親との関係が原因のようでした。奨学金をもらっているのは、大変誇らしいことであると同時にある一定の成績を下回ると退学になります。また学校ではテストの点数だけでなく、毎日だされる大量の宿題や授業態度等も重視して成績をつけられています。

たまに漏れ聞く話や、行事などで会った経験から思い出すと、その女の子は大変甘やかされていました。両親、特に父親は自分の娘がいかに優秀かという話をほぼ初対面の私にたくさんしましたし、その学校に奨学金を得て通うことになったからには何でもしてあげるんだと力説していました。その『何でも』は想像するにお金で解決できるものが主だったんだと思います。新しいラップトップ、スマートフォン、洋服、勉強道具、教科書(うちの娘は安い中古を買いました)、乗馬レッスン、等々私の知る限りでも子供が三人もいるのにあのお父さんすごいなぁと思うような買いっぷりでした。

で、『お前はすごい、すごい』と言い続けているうちに、その女の子はちょっと誤解してしまったんだと思います。娘曰く、宿題をしなかったりクラスに遅れて来たり居眠りしたりと問題はたくさんあるのに『私はすごい』となぜかいつも自信満々だったそうなんです。そして迎えた半期ごとの成績発表の日。彼女は両親から『こんな成績じゃ学校を追い出されて、公立行きで人生終わりだ』と言われたそうなんです。その話を聞いて、それは親のやり方が間違っているんじゃないだろうか、かわいそうにと思ったのを覚えています。

成績を上げなくちゃいけない、でも親に相談できない、周りの友達は時間をかけてこつこつと積み上げて来た実績で難なく宿題をこなしている、そんな状況でその女の子は追いつめられてしまったのではないでしょうか。娘が『お願いだからもう手は切らないで』と言ったところその時はもうしないと言ったのですが、数日後娘はどんどんひどくなって行く傷跡を見せられたそうです。

これは親御さんに連絡してあげなくてはと考えていた先週末、娘が絶叫しながら部屋に駆け込んできました。『今連絡があって、遺書を書いて家中の薬を集めたって、どうしよう、死んじゃう、死んじゃう』と。薬の種類は主に鎮痛剤で、どう見てもそれでは死ぬことはできないと分かってはいましたが私もかなり動揺しました。親御さんの連絡先を必死になって探している間、泣き続ける娘をなだめてメールをチェックさせたところ、その女の子のお母さんからメールが来ていました。

『初めてうちの子が何をしているか気がつきました。病院に入れることにしたのでしばらく学校には行きません。支えになってくれてありがとう。』と。

それから、その子は学校には来ていません。生意気ちゃんで持ってる物の自慢ばかりで片親のうちの娘をちょっと小馬鹿にしていて何だかなぁな子だけど、たった14歳で辛かっただろうな。見かけは金髪に青い目で天使みたいなかわいい笑顔のその子が、早く学校に来れるようになればいいと今は心から思います。